話の聞き方

以下は,S.I.ハヤカワ著『言語と思考』(四宮満訳,南雲堂,1972)の「聞き方」の章の紹介である。世に,話し方教室はあっても,聞き方教室はない。話し手がいくら良い内容の話をしても,聞く方が,理解できなかったり,話し手が全然話していない内容を話したと信じてしまえば全く無駄である。次の9項目を実践せよというのである。

 

1.用語の統一をしない。話の中ではキータームが重要な役割をしているが,聞き手の方で,それについての定義がまちまちであるのが普通である。その時に無理にその意味を一つに統一せず,語の意味は,個人財産ではなく,公共財産であり,十人十色であると承知して,柔軟に対応すること。統一的な意味などというものはないのだから,話し手が,そこで,それをどういう意味で用いているかに注目すべきである。

 

2.不当な要求(他の人も,自分と同じ意味でその語を用いるべきだ,はずだ,とすること)をしないで,話を聞く。相手の枠組みの中で,その意味を理解するよう努める。

 

3.相手の考え方がはっきり分るまでは,それに対して,賛成も反対も,称賛も非難も,しないこと。

 

4.この競争社会では,大半の人々は,自分の考えを相手に伝えることに主な関心がいっており,他人の話は退屈で,自分の思考の流れを妨げるだけだと考えている。多くの場合,人が話している間は,儀礼的に沈黙を守っているが,その間に話の糸口をつかんだら話そうと思っていることを,心の中でリハーサルしているか,相手の議論の欠点を注意深く観察している。話を聞くとは,問題を相手の見方でみようとすることである。

 

5.相手の独自性を知るべく質問する。相手の考え方を知りたい,明確にしたい,という研究心から質問をする。懐疑や,挑戦的態度,敵意をにおわす態度はとってはならない。

 

6.相手の言うことを,一般論の中でまとめない。「君の立場はいわゆる***の一種だね」というような言い方。

 

7.過度に,相手の言っていることから一般化をしない。「海水浴が好きだと言ったからといって,塩漬けになりたいという訳ではない」。

 8.実際に話されたことだけを議論し,話されていないことについては議論をやめる。「私は話したことしか話していない。話していないことは実際に話していないのだ」。

 

9. 相手に勝つためではなく,ことがらを明確にするために議論する。すると最後には,賛成,不賛成,承認,不承認はあまり重要ではなくなる。重要なことは,十分な知識,すなわち,他の人が,何を,何故,したり,考えたりするかについての知識を,十分に仕入れることである。自分と違った見解や態度,また ,その理由を理解したときのみ,状況における自分の位置をもっとよく理解するようになる。